
Défi ── フランス語で「挑む」。美食に挑むのではありません。自分の舌の、通俗に挑むのです。
美味しかった。
食事会の感想が、その一語で終わってしまうことがあります。けれどその一皿には、土地があり、季節があり、歴史があり、誰かの思想があり、そしてそれを今夜この順序で出すと決めた、作り手の意志がある。それらを知らずに口に運ぶのは、装丁だけを撫でて本を閉じるようなものです。
LE DÉFI R は、知ってから食べる会です。あるいは、食べながら知り、知ったことでもう一度味が変わる瞬間に立ち会う会、と言ってもいい。
知識は、美食の邪魔をしません。むしろ、味覚の解像度を上げる唯一の道具です。産地を知れば酸が意味を持ち、造り手の事情を知れば渋みが物語になる。同じ液体が、知った途端に別の飲み物になる。この現象を、私たちは何度も目撃してきました。
舌は、鍛えるものではなく、編集するものである。
そして、もう一つ。この会の主役は料理でもワインでもなく、その夜に居合わせた人間です。肩書きを外し、同じ皿を前に、それぞれが知っていることを持ち寄る。美食と知識のマリアージュとは、実のところ、人と人のマリアージュの別名でもあります。
食べるために集まるのではありません。わかるために集まり、結果として、旨い。
肩書きで座らない。
名刺は預けてお越しください。今夜の身分は、感じたことを言葉にできる人、それだけです。
黙って食べない。
疑問はその場で。問いは、この会における最良の調味料です。
答えを持ち帰らない。
持ち帰るのは、次に何かを口にするときの、新しい問いのほうです。
第一夜視覚を、消す。(ダークダイニングレストラン)
― Dîner dans le Noir
完全な闇のなかで供される晩餐。皿の色も、隣人の顔も見えない。視覚という最も饒舌な感覚を封じたとき、舌と鼻と耳が、これほど多くを語り出すのかと驚かされた一夜。
我々は、目で食べていた。
第二夜八本が、献立を決める。
― Otto Bottiglie, Una Sera
カウンター八席。イタリア偏愛の飲み手たちが、それぞれの一本を携えて集う。合図とともに一斉抜栓。シェフとソムリエがテイスティングを行い、献立は、そこから即興で書き起こされていく。
料理がワインを選ぶのではない。今夜は、ワインが料理を書いた。
第三夜大西洋を、裁く。
― France vs. America, The Paddle Session
フランスとアメリカ。同じ品種、異なる思想。銘柄を伏せた二杯を前に、参加者はパドルを掲げて評決を下す。歴史が勝つのか、日照が勝つのか。掲げた手が、自分の先入観を映す鏡になる。
パドルが上がった瞬間、正体を現すのはワインではなく、我々のほうだ。
第四夜理で、食べる。
― Michelin Restaurant Collaboration
ミシュラン星付きの厨房と、西田理一郎による共作。なぜこの温度か、なぜこの順序か、なぜこれを引き算したのか。シェフの設計思想を解きながら、一皿ずつ進む。食後に残るのは満腹ではなく、構造の理解。
理解した瞬間に、もう一度味が変わる。
第五夜天空で、言葉を聴く。
― A Table in the Sky
眼下に街の灯を敷いて、匿名の評価者たちが遺した言葉を読み解く夜。星は何を見ているのか。彼らはどこを、どの順番で、どれほどの沈黙をもって観ているのか。評価するという行為そのものを、卓上に載せた。
星を見上げる側から、星を付ける側の視座へ。
第六夜
― Ce Qui Reste
ワインが搾り取ったあとの皮と種。蒸留という一手を経て、食卓の最後に立つ酒になる。グラッパの物語は、いつも終わったあとから始まる。単一品種、単一生産者、二十年を樽で過ごした一本——飲み終わったあとがスタート地点。
語りはエンドレスに続く。
第七夜
ピエモンテの森に足を踏み入れ、猟犬の瞳は「宝探しの始まりだ」と語る。
慎重に掘り出される白トリュフ。芳醇な香りがふわりと広がり、大地が贈る至高の贈り物が顔を出す。
第八夜
春の夜に許された、一夜限りの沈黙を破るコニャック王座の儀式
百年の歳月を閉じ込めた一滴が、
静寂を破る。
琥珀の雫は、時の地層を越えて
唇にたどり着く。
王の名を冠した、時間の結晶
第九話
ニセコ羊蹄山の雪化粧が織りなす荘厳な風景を前に密かに憧憬を抱く排他性。
究極のプライベート体験。
第十夜
深紅の血潮がギターの絶叫と共に舞い踊り、カスタネットが死を呼ぶリズムを響かせ、フラメンコの劫火が星々を飲み込む!
タパスは悪魔の甘い囁き、ワインは魂を焼く溶岩となって血管を駆け巡る。今宵この地は地獄門アンダルシア!
踊れ!狂え!灰になるまで!
今宵、スペインの夜は永遠なり。
第十一夜
― THE SAUVIGNON SHOCK
マールボロのソーヴィニヨン・ブランが世界のワイン観を殴り飛ばした年から始める。サンセールと真っ向勝負のブラインド比較を1組、そこから現行のNZソーヴィニヨン5種へ。
「あの青い香りは何だったのか」を検証。
第十二夜ガストロノミーツーリズム×
土地の伝承や未解決の記憶を素材に、シェフと書き手が一皿=一章を共作。参加者はコースを食べ進めながら物語を読み終える。
第十三夜ガストロノミーツーリズム×
この味は、あと何年残るのか。消えかけている食文化の担い手が「最後に伝えたいこと」を語り、その一皿を囲む。
第十四夜
― Le Mariage du Goût et du Savoir
派手さは、視線を集めるが、品格は、沈黙のまま選ばれる。味わう力とは、人生の手触りに対して長く払い続けてきた授業料のことだ。
舌は、隠せない。味覚と知性が出会うとき、食事は物語になる。
第十五夜
― Chronique des Bulles
修道士の時代から、瓶が割れ続けた18世紀、未亡人たちの発明、そして現代へ。シャンパーニュ三百年の歴史を一章ずつたどりながら、その時代を象徴する一杯を飲み進める。
LE DÉFI R は、招待と紹介によって静かに続けられている会です。席数は、会話が一つに保てる数を超えません。告知は行わず、その夜にふさわしい方へ、個別にご案内を差し上げています。
次の夜のご案内をお望みの方は、その旨と、最近いちばん心を動かされた一皿か一本を添えてご連絡ください。それが、この会における唯一の履歴書です。
LE DÉFI R 主宰 西田 理一郎
Gastronomie et Savoir ── 美食と知識のマリアージュ